私は社会人になってから3年ほど、毎日仕事で敗北感を感じていました。
それは、いくら残業しても全然仕事が予定通りに終わらない、という無力感でした。
自分の無力さが嫌でたまらず、少しずつ仕事のやり方を変えていった結果、今では仕事を完全に完了させ、毎日定時退社できるようになりました。
ここ数年は全く残業せず、会社の最高評価を得ています。
本記事では、自分が感じていた敗北感の正体とその原因、対処法を紹介します。もし同じように悩んでいる方がいれば、何か参考になるかもしれません。

とさか (登坂 圭吾)
- 大手メーカー会社員。研究開発職。2児のパパ。
- 独自のタスク管理術を構築した結果、残業ゼロで成果を出し、飛び級で昇進。
なぜ、仕事で毎日敗北感を覚えるのか
私が社会人になってから3年間くらいは、毎日敗北感を感じていました。
仕事終わりに感じる敗北感
敗北感の正体は、「残業しているのに、予定していた仕事が全然終わっていない」という事実です。
私は仕事が始まる朝、「今日のやることリスト」を手帳に書き出していました。今日は仕事が進むことを確信し、意気揚々と仕事を始めます。
しかし、定時の17時になったとき、気づくと「今日のやることリスト」が半分しか終わっていません。
なぜだ。別にサボっていたわけではないのに。
そして残業します。まあ、あと3時間やれば終わるだろう、と。
しかし、終わりません。20時になっても、やることリストは7割しか終わっていません。さすがに諦めて、「明日やるか…」と妥協して帰宅します。
これが毎日続くと、自分は予定通りに仕事ができないダメな人間だ、という小さな敗北感が少しずつ心を蝕んでいきます。
プライベートでも同じ
プライベートでも、同じ現象が起きていました。
何も予定のない土曜日の朝、「今日はいろいろやりたいことを片付けよう」と意気込み、付箋にTodoを書き出します。部屋の掃除、買い物、ジムに行く、調べ物、資格の勉強、その他こまごましたもの、、、
朝の時点では、今日1日ですべて完了できると確信しています。むしろ、1日あるんだから余裕だろう、くらいの気持ちです。
しかし不思議なことに、夜になっても予定していたTodoの半分も終わっていないのです。
1日の仕事が終わらないのとまったく同じ現象です。
では、仕事(=タスク、Todo)が終わらない原因は何なのでしょうか。
1日の仕事が終わらない原因は4つ
私は敗北感を毎日感じるのが嫌で、この原因を考え、検証し続けてきました。その結果、仕事が終わらない原因が見えてきました。
仕事が終わらない原因は、4つです。
- そもそもキャパオーバー
- 見積りが甘い
- 名もなきタスクの存在
- 割り込みタスク
順に説明します。
① そもそもキャパオーバー
おそらく一番多い原因がこれです。
そもそも、やることリストが1日のキャパシティを超えているのです。1日の労働時間が8時間として、そこに10時間分のタスクを詰め込もうとしてしまいます。
なぜこんなことが起こるのでしょうか?
それは、時間を見積もっていないからです。やること、というより「できたらいいなリスト」は、処理にかかる時間が全く考慮されていません。
私も、最初の頃に使っていたTodoリストは、ただやることを書き並べただけでした。
不可能に挑戦していたのです。仕事が終わらなくて当たり前です。
② 見積りが甘い
時間を見積もったとして、次に発生するのがこの問題。
「1時間もあれば終わると思った資料作成が、始めてみたら2時間もかかってしまった」というのは、おそらく誰しも経験があることでしょう。
仕事が終わらない、最もなじみ深い原因です。要は、タスクの処理にかかる時間の見積りが甘いんですね。
「計画錯誤」は、人類共通の問題
この見積りが甘いという問題は、研究でも実証されています。
ダニエル・カーネマンの有名な書籍「ファスト&スロー」では、次のような実体験が紹介されています。
ある教科書を作成するプロジェクトで、当初の予想では完成までにかかる時間は2年半だった。
しかし実際には、教科書の完成までに8年!かかった。
カーネマンはこの認識のズレを「計画錯誤」と呼んでいます。あるタスクに想定以上の時間がかかるというのは、もはや人類共通の問題であると言えるでしょう。
研究結果の詳細(論文)はこちらです→Exploring the “planning fallacy”: Why people underestimate their task completion times.
「余裕感」という罠
また、見積りの甘さは、別の問題も引き起こします。
気の重い仕事に入るとき、ついつい軽い雑務に逃げてしまうこともあるでしょう。雑務でなくても雑談とかも。
これも、「まだ時間が余裕だから多少他のことをしても大丈夫」という甘い考えが引き起こす罠です。
プライベートでやることがあるのにYouTubeや漫画をダラダラと見てしまうのも、「まだ時間はある」という余裕感が原因かもしれません。
頭では「そろそろやらなきゃ」と思っていても、どこかで「間に合うだろう」と楽観的に考えてしまう。その余裕は、実は“根拠のない見積り”の上に成り立っているのです。
③ 名もなきタスクの存在
やることリストに現れないタスク
皆さんは、やることリストを洗い出すとき、どこまで細かく考えますか?
おそらく、「トイレに行く」というTodoを書く人はいないと思います。しかし現実には、トイレに1日3回くらいは行くでしょう。1回3分とすると、合計で10分弱です。
他にも、メールチェック、ゴミを捨てる、ちょっと休憩する、同僚と雑談する、飲み物を買う、机の周りを片付ける、など、挙げればキリのない「名もなきタスク」が存在します。(いっとき、“名もなき家事”が流行りましたね)
特にメールチェックはかなりの時間を喰います。「〇〇さんにメールを送る」というTodoはあると思いますが、単にメールチェックまでやることリストに書いている人は少数派でしょう。
マッキンゼーの調査では、ビジネスパーソンは1日のうち28%をメールに費やしているそうです。
やることリストには現れない、しかし確実に時間を使うのが名もなきタスクです。
名もなきタスクがやることリストを破綻させる
名もなきタスクが問題なのは、これらの時間が勘案されていないことです。
1日の労働時間が8時間あるとしましょう。ここで我々は、8時間分の「名前のあるタスク」を詰め込んでしまいます。
しかし名もなきタスクの存在によって、8時間のうち実際に使える可処分時間は6〜7時間くらいになります。
6時間で8時間分のタスクを完了させようとすると、必ず破綻します。だから仕事が終わりません。
名もなきタスクは悪ではない
ここで誤解を招かないように断っておきたいのは、名もなきタスクが悪ではないということです。
ちょっと休憩したり、同僚と雑談したりするのは、生産性を落とす行為のように思えます。
しかし、私達はロボットではありません。デヴォン・プライスの著書「怠惰なんて存在しない」でも述べられているように、ちょっと一息入れることは、全体で見ればむしろ生産性を上げます。
あくまで問題なのは、そういった時間を1日の可処分時間に織り込んでいない点なのです。
④ 割り込みタスクが入る
4つ目の原因は、割り込みです。
上司からの「ちょっといい?」
会社員で一番典型的なのは、上司からの依頼でしょうか。「ちょっといい?」から始まり、指示を受け、実際に作業します。
これも、別に悪いことではありません。上司が部下にタイムリーに指示を出し、部下が即座に対処するのは、組織として健全です。
しかしここで見落としがちなのが、割り込みタスクによって弾かれるタスクがあることです。上司からの指示受けに5分、作業に10分かかったとします。この割り込みタスクにより、他のタスクに使える15分を消費します。
私達は、可処分時間めいっぱいにタスクを詰め込みがちなので、15分の他のタスクを諦めるか、残業するかしかありません。残業できない場合、詰みです。今日の仕事は終わりません。
上司からの指示以外にも、顧客や関係者からのメール、電話などがあるでしょう。職種によっては割り込みの頻度も相当高いかもしれません。
割り込みタスクは内からも発生する
タスクの割り込みは、何も外からだけではありません。自分自身からも発生します。
例えば、タスクAを完了させた後、次はタスクBが必要なことに気づきます。資料作成を完了したら、次は上司にチェックしてもらう、などですね。
タスクBが今日のやることリストに入っていない場合、そのままタスクBに突入すると、その分の時間を消費します。そして、当初予定していた別のタスクが弾かれることになります。
こうやって、自分自身によって、今日のやることリストが瓦解します。
プライベートで部屋の片付け中につい漫画を読んでしまうのも、自分が発生させた割り込みタスクですね。
4つの原因が複合すると、半分しか仕事が終わらない
これら4つの原因が重なると、恐ろしいほどに仕事は終わりません。
まず、終わるはずの無い仕事量を1日に詰め込むため、すべてを完了させることは不可能です。そして、時間の見積りも甘いため、各タスクに想定以上の時間を取られます。
追い打ちをかけるように、名もなきタスクと割り込みタスクによって、もともと足りない時間がさらに削られます。
こうなるともう、仕事は半分も終わりません。
入社1年目の私がまさにこれで、予定していたタスクをまったく完了できない自分の無力さに打ちひしがれていました。
仕事が終わらない4つの問題への対処法
では、仕事が終わらない4つの原因に対して、それぞれ対処法を解説します。
まず各論を説明しますが、最後にまとめを提示します。
① キャパオーバーへの対処法
キャパオーバーへの対処はとても簡単です。
やることリストに「見積り時間」を加えます。
いっけん手間ですが、時間を見える化することで、キャパオーバーしていることが一発で分かります。
不可能なやることリストに挑戦して挫折を味わうより、最初からできる範囲でリストを作った方が、気持ちよく1日を終えられます。
見積り時間を合計するのは面倒なので、手書きよりもExcelなどのアプリを使った方が良いでしょう。後ほど、対処法を盛り込んだExcelのTodoリストを紹介します。
② 甘い見積りへの対処
次は甘い見積りへの対処法です。1時間で終わると思った資料作成に2時間かかるという問題ですね。
この対処法は、3つあります。
ログを取る
一つ目の対処法は、ログ(記録)を取ること。
先に紹介した「ファスト&スロー」においても、計画錯誤の対策は過去を参照すること、と述べられています。以前、同じようなタスクに2時間かかったならば、今回も2時間かかる可能性が高いわけです。
そして、過去を参照するには、記録を残す必要があります。
ですが、どの仕事に何分かかったかを把握している人は稀でしょう。
理想的には、ストップウォッチで各タスクにかかった時間を計測するのが良いでしょう。そこまでやらなくても、タスクの開始時刻と終了時刻を確認するだけで、大いに効果があります。
きっと、「あれ、この作業ってこんなに時間がかかっていたのか」という意外な結果が得られると思います。
ログを取ることで、同様のタスクの見積り精度が劇的に上がります。
タスクを分解する
タスクを細かく分解すると、見積り精度が上がります。流行りの言葉で言うと、「解像度を上げる」ことにあたりますね。
例えばパワポ資料の作成であれば、資料作成という一つの塊ではなく、スライド1枚ずつに分解します。
そうすると、スライド1枚あたり15分かかる、スライド8枚なら120分か、というように論理的に時間を見積ることができます。
もちろん、スライド1枚15分という見積りも甘いかもしれません。しかし、資料全部の作成時間よりは、精度が良くなります。
さらに上級編として、タスクの具体化まで行いましょう。
タスクの具体化とは、例えば「スライドを1枚作成する」ではなく、「背景の説明スライドを作成する」のように、実行するタスクを明確化しておきます。
私の体感として、タスク名を具体化するだけで、見積りの精度がかなり上がります。
この理由は、脳内でシミュレーションが動くためと考えています。「背景」と入力した瞬間、背景スライドを作成する場面を思い浮かべ、あのテキストとあのイラストと…というように、スライドの構想が一瞬だけできあがるのです。
これにより、タスクの見積り精度が劇的に上がります。
バッファを持つ
見積りの甘さは、精度をいくら高めても限界があります。
過去を参照する場合にも、その時々で状況は変わりますし、新しいタスクに取り組む場合、過去を参照できません。
そこで、見積りの甘さを許容するための“バッファ”を設けます。バッファとは、緩衝材のことです。
多少見積り通りにいかなくても、今日1日のタスクが破綻しないように、スペースを空けておくのです。例えば、1日30分をバッファ時間として見込んでおきます。
これであれば、多少見積り時間をオーバーしたとしても、バッファで吸収し、全てのタスクを終えることができます。
③ 名もなきタスクへの対処
次は名もなきタスクへの対処法です。やることリストに無い行動によって、可処分時間が減るのいう問題ですね。
対策は2通りあります。
全てを入れ込む
一つ目は、名もなきタスクを書き出すことです。すべての行動に名前を付けて、実体化してあげましょう。
ただ、これを手書きのTodoリストでやるのは相当しんどいです。毎日、細かい行動まで全て書き出す必要があります。
もしやるならば、タスク管理アプリを使って、リピート登録しましょう。
一例ですが、全ての行動を記録できる、「Taskma(たすくま)」というアプリなら可能です。たすくまの紹介記事はこちら↓

天引きする
名もなきタスクを全てを入れ込むよりも、現実的な方法です。
名もなきタスクはどうせ発生するのだから、1日の労働時間から天引きしておきます。例えば、1日8時間の労働時間から、名もなきタスクに消費される前提で1時間を天引きしておきます。
つまり、1日7時間でタスクを組み立てるのです。
この天引きした1時間の中は自由に使ってよくて、休憩や雑談、メールチェックなど、好きに使います。
天引きを何分にするかは人それぞれなので、何日か試して調整してみてください。
④ 割り込みタスクへの対処
割り込みタスクへの対処は単純です。
天引きしておく
名もなきタスクと一緒ですね。割り込みタスクについても、あらかじめ想定しておきます。
いくら想定するかは、人によるでしょう。
ほぼ一人で仕事を進めていて、急に仕事を振られる可能性が低いなら、20分くらいでもいいです。
一方、顧客からしょっちゅう電話がかかってくる状況なら、多めに時間を確保する必要があります。
明日やる
もう一つ、重要な視点があります。
当初想定していなかった割り込みタスクは、基本的に翌日にやると決めるのです。
これは、名著「仕事に追われない仕事術 マニャーナの法則」でも紹介されている重要な考え方です。
割り込みタスクに今日取り掛かれば、その結果として、今日もともと予定していたタスクに費やす時間がなくなります。
であれば、割り込みタスクがよほど緊急でない限り、翌日にやりましょう。
割り込みタスクを明日のタスクに組み込んだ上で、明日のタスクを設計します。
こうすれば、今日のタスクは守られ、無事に完了することができます。
対処法まとめとTodoリスト
ここまで対処法を個別に紹介してきましたが、やや重複があり、かえって混乱を招いてしまったかもしれません。
そこで一度整理して、「1日の仕事を確実に完了させる方法」をまとめておきます。
個別の対処法は次の通りでした。
- 見積り時間を書く
- ログを取る
- タスクを分解する
- 名もなきタスクを入れる
- バッファを持つ
- 割引きタスクの時間を天引きする
- 明日やる
これらを盛り込んだのが、次のTodoリストです。順番に特徴を説明します。

見積り時間を書く
まず、タスクの横に見積り時間を書きます。

そして、すべてのタスクを合計すると何時間になるかも計算します。Excelなら簡単ですね。

ログを取る
タスクに何分かかったのか、ログを取ります。
見積り時間の横に”実績”の入力列を作り、実際にかかった時間を入力します。

これにより、どのタスクにどのくらいの時間がかかるのか把握できるようになります。
タスクを分解する
各タスクは、できるだけ細かく設定します。
私の場合、1タスク=10〜25分に設定することが多いですね。(上の画像は適当な例なので、あまり細かくしていませんが…)
資料作成[120分]と入れるのではなく、背景スライド作成[15分]くらいに分解しましょう。
ちなみに、私のこれまでの約2500個のタスクのログを見てみると、平均16.7分でした。
タスクの上限を25分にしているのは、ポモドーロ・テクニックに由来しています。生産性向上で有名なポモドーロ・テクニックでは、25分に1回は休憩を挟みます。
名もなきタスクを入れる
ここは個人の好みが分かれますが、名もなきタスクをできるだけ入れてもいいでしょう。
例えばメールチェック15分を、午前と午後の1日2回入れておくなどです。
入れておいた方が、精度が上がります。
ただ、毎日細かいタスクを入力するのも手間なので、次に説明する天引き・バッファの方にまとめてもOKです。
ちなみに私は、Excelのマクロを組んで、リピートタスクが自動入力できるようにしています。
天引き・バッファ
時間の天引きとバッファは意味合いが似ているので、まとめて説明します。
天引き・バッファの表現には、2つのパターンがあります。
1つ目は、タスクにバッファを入れ込む方法です。バッファ120分などと入れておきます。

この状態で、合計時間=労働時間になるようにTodoリストを調整します。
2つ目は、合計時間を差し引く方法です。
”バッファ”という項目はTodoリストには入れずに、合計時間を少なくします。
労働時間7.5時間で、バッファ2時間であれば、タスクの合計時間が5.5時間になるように調整します。

バッファを2時間も入れるの?と思われるかもしれませんが、実際、私は労働時間が7.5時間ですが、快適に処理できるタスクは、5.5時間です。
最初の頃はバッファ60分くらいで運用していましたが、それでもすごく忙しくて、タスクをすべて完了できない日がありました。
徐々にバッファを増やして、2時間のバッファを入れたところ、快適に仕事が回るようになりました。
皆さんが思われる以上に、名もなきタスクや割り込みタスクは多いです。
バッファをいくら持つかは、個人の環境によるところも大きいので、試しながら調整してみてください。
明日やる
今日追加されて、明日できることは明日やりましょう。
そのために、Todoリストに「明日」シートを作っておきます。

上司の頼まれごとや、今日追加されたタスクは、「明日」シートにメモしておきましょう。
これで、今日のTodoリストを乱されずに、仕事を終えられます。
Todoリストの作り方
Todoリストの作り方の紹介もしているので、こちらの記事も参考にしてみてください↓

Todoリストテンプレートのダウンロードもできます。
おわりに
ここまで読まれて、「なぜそこまでタスク管理に力を入れるのか?」と思われた方もいるかもしれません。
やっぱ面倒だから、やることリストをいっそ放棄した方が良いのでは、と。
しかし私にとって、タスク管理の真の目的は生産性の向上ではありません。
そのあたりは、次の記事で書いていこうと思います。